映画の紹介③ 「レスラー」

2003年に公開された映画「レスラー」。カンヌ映画祭では「金獅子賞(パルムドール)」を獲得して、その年のアカデミー賞にもいくつかの賞にノミネートされた映画です。


この映画の主役は、「ナインハーフ」「エンゼルハート」などの80年代の名作に出演した『ミッキー・ローク』。90年代にキャリアはやや低迷したものの、彼も50代後半になって、まさに自分の人生を映したようなこの作品に出演し、再評価された作品でもあります。


映画の魅力について一言で言えば、「中年男性の心のあり方」をダイレクトに描いている点。理想を求めて若い頃から仕事等で走り続けた中で、中年になり身体の衰えという現実の危機を体験し、これからをどう考えるかという普遍性のある男性の苦悩を描いていると思います。


だから同じ男性の一人としては、見ていて考えさせられるというか、身につまされるというか、共感しすぎて一緒に喜んだり落胆してしまうというか、そうした気持ちが入り込んでしまう映画でもありました。


技術的には、この映画はドキュメンタリータッチの映像表現を多用しており、一つ一つの出来ごとは淡々としているものの、結果的にその積み重ねが後半に向かうにしたがって、主役の心理に絡め取られ他人事ではいられなくなる。そしてラストシーンでは、その見ている側に沸き起こった複雑な感情を十分に処理してくれないまま(答えをはっきりさせないまま)、こちら側に考えさせる余韻を与える。


ちなみにこの映画が日本で公開された日に、「三沢光晴」という我々世代には有名なプロレスラーがリング上で亡くなるという出来事がありました。彼はレスリングというエンターテイメントの世界に身を置きながら、人々の心の癒やしや勇気ともなり、またそうした中で自らの身も削りながら人生を燃やし続けたという印象的なレスラーでした。


心理学者のユングやレビンソンは40代から50代かけてを、人生の危機の時期(転換期)として明確化し、そこをどう捉え生きていくかをそれぞれ提示しました。その辺りの話もまた今後話題にしたいと思いますが、中年は何かと自分の生き方を問い直すことが多い中で、あまり表に出にくいある意味男にとって背中で語る部分が上手に描かれた、印象的なヒューマンドラマでした。