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北山修先生講演③ テーマ「羨ましいと焼く」


第3回のテーマは、『「羨ましい」と「焼く」』について。


臨床心理学を始めた重要な人物は、「無意識」を発見したジークムント・フロイト。


そしてその次の世代の代表者は、フロイトの娘アンナ・フロイトと、メラニー・クラインだとされています。両者とも「自分こそが正当なフロイトの後継者だ」と考えていました(仲も悪かった)が、アンナ・フロイトはフロイトの「防衛」という考え方を発展させ、メラニー・クラインはフロイトの「死の本能」という考え方を継承したとされています。


そして今回の北山先生の話に出てくる「羨望(Envy)」は、そのメラニー・クラインの代表かつ画期的な考え方である。


先生の話の中にも出てきますが、それは「相手の良いものを攻撃したくなる(破壊衝動)」という複雑な気持ち。これは、幼児の心理として一般的に認められるものとされていて、「良い対象」と「悪い対象」という、最初は2つの分裂したイメージが統合されていくことを通して、安定した心が育まれていくという考え方(「羨望」というファンタジーが、現実感との統合を経て「抑うつ」感情になっていく...)。


フロイトが発見した「エディプスコンプレックス」は、こうしたクラインの二者関係をベースとした幼児期課題の次の課題とされていて、「子どもー父−母」を代表とした三者関係を扱っていると考えられています。なので、クラインは確かにフロイトが模索しながら残していった、こうしたより幼い時期の子どもの心理や、人格障害や統合失調症と言ったより深いこころの問題を明らかにしたという意味で、アンナ・フロイトとは視点の違うフロイトの継承者なのです。


北山先生もおっしゃるように、メラニー・クラインが明らかとした世界は臨床心理学でも非常に理解が難しい(生々しい)世界でもあるので理解するまで時間がかかるわけですが、私たちが時折持つ「人をうらやむ」「自分にないものを持つ人に嫉妬する」という気持ちとしてとらえることができるのであれば、ちょっと馴染みがある話として整理できるのかもしれません。


またこうした「嫉妬」「羨望」は、自覚的であれば健康寄りであり、無自覚に怒りを抑えられず生活しているのであれば、問題寄りであるとも言えるようです。だからそうした感情があってもいいわけで、自覚していればそのことに悩み、その解消を「創造的な羨望」に変えて、果たしていくことができるというお話でもあります。


人間の心理には幅があって、「羨望」や「怒り」という負の感情があるから、すぐに病気というわけではないのですね。大事なのはその気持ちとの付き合い方(手なづけ方)ということだと思います。



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