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依存症について②(大麻合法化論の問題)

現代の薬物の問題について触れてみたいと思います。


依存性物質とその依存度(危険度)は、それぞれの物質が持つ①身体依存、②精神依存、③耐性、の3つの特徴で判断をします。「キングオブ薬物」と言われている”ヘロイン”は「身体依存の嵐」なんて言われたりして、恐ろしいほどの禁断症状が出てしまいます。一方で覚せい剤は身体依存があまりないと言われていますが、精神的依存が強くあり、なければ落ち着かない、不安な状態になるためやめられなくなってしまいます。

上の表を見ていただければわかりますが、アルコールにも身体依存や精神依存が中程度あり一般にイメージされている以上に依存のリスクがあります。そしてタバコもアルコールよりは弱いですが、身体依存や精神依存が形成されやすいものです。それに比べて大麻(マリファナ)は身体依存や精神依存は弱いわけです。このことを根拠に、最近では大麻を合法化させようという流れが世界的に生まれています。ここには闇社会や売人の撲滅の観点から税制管理の視点まで様々な理由がありますが、「合法薬物であるアルコールやタバコよりも安全なのだから、合法化してもいいだろう」という安易な論理・主張もあったりします。


確かにこの意見は薬理学的には間違いではありません。でも私は日本のマリファナの合法化には反対です。例えばアルコールとの比較なども、私は「本当はアルコールだってやばい薬物なのだからその比較は危険だ」と思います。アルコールを始めとした依存症治療の場を長く経験しているから、アルコールであっても人の身体や心、家族にどれくらい悲劇を生むかを知っているからです。


確かに世界の一部ではマリファナは合法化されています。しかしこれは随分日本の事情と違って、警察等による薬物や闇社会の規制が、人的にも金銭的にも追いつかないから、売人やマフィアの排除を目的として合法化されたという経緯があります。


しかしながら実際合法化された国として有名なオランダ(しかし正確には完全合法化ではないのですが)のアムステルダムに行ってみると、世界中から若者が集まり活性化している華やかな街の裏側で、マリファナを吸った後のバットトリップに悶える人、薬物とお酒をチャンポンして下を向いて意味不明な言葉をしゃべっている人、自転車に乗り街中を駆け回るハードドラックの配達人、街の治安が悪くなったことを嘆く現地の人達、等に出会いました。またこうした問題が起こっているのにも関わらず、街に警察官の姿がほとんど無い。これは明らかに失敗していいると思いました。


若者を薬物を誘う人たちは「いいことしか言わない」です。彼らは薬物がとってもいいものと信じ込んでいて、都合の悪い情報は驚くほど無視する。これは以前にもアルコール依存症の特徴としても挙げましたが、ここにも問題の「否認」が端的に現れています。そしてその素晴らしい口車に乗せられて(それは本当に素晴らしい!)、実際に薬物に手を出してしまい、一部はその後ハードドラックにも移行して薬物なしでは生活できなくなる。すべての人ではないですけど、特に不安の強い人、日々のプレッシャーにあえいでいる人、自己愛の問題を抱えていたり精神的な不安定さが強い人、衝動的な人はこの罠に陥りやすいわけです。


一般論で安全かどうかを議論するよりも、薬物に手を出す人には少なくとも2群の人たち(①正常群、②不安定群)がいて、合法化することでそれぞれにどんな問題が起こるのか、そうしたことをきちんと議論するべきです。依存症に陥る人たちの多くは弱者であってそうした人たちをどう救うのかという議論が最も重要であり、「(正常者は)依存症になるリスクは低いからソフトドラッグは解禁にすべき」は、弱者への新たな「格差」や「困難」、「差別」を生むだけなのではないかと考えます。

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