映画の紹介⑩「愛と青春の旅立ち」

先日、NHK BSで放映されていました。不朽の名作「愛と青春の旅立ち(1982年製作)」。


この映画が名作というのは聞いていましたが、実は見るのは今回初めてだったりします。


割と地味にインパクトのあるオープニングから始まります。14歳の主人公のメイヨ(若かりしイケメン;リチャード・ギア)は母親の自殺を受けて、フィリピンに住む父親の元に向かいます。海軍に所属し海外生活が多い父親は、家族を捨て勤務地フィリピンでアルコールと娼婦遊びに没頭する堕落した生活を送っていました。


父の堕落は母の自殺の原因となっていたにもかかわらず、自らの生活を変えないばかりか、肉親を頼ってやってきた息子を無下に扱います。それだけでなく彼は学校ではいじめにあうなどして、何重苦もの辛い子ども時代を過ごすのです。


青年になったメイヨは、父親の背中を追うように(二の舞を踏むように)シアトル郊外にある海軍の士官学校に入隊します。そこは半分以上の生徒が途中除隊する、厳しい訓練の場です。鬼軍曹に鍛えられるシーンなどは、アメリカ映画ではお馴染みのシーンです。しかしそのように厳しく訓練することで、有事の状態でも冷静な判断が可能となるメンタルの構築を目指すという意味合いもあるようです


その一方訓練の合間を縫って、この街に住む女性達と恋愛関係に落ちる若者たちの姿も描かれています。学校の雰囲気からは、激しい訓練の全てにおいて禁欲を強いるのではなく、オフタイムの自由を容認するような西海岸らしいリベラルさが描かれている。


しかしこの恋愛関係も、それが深まるにつれ若者たちに不安を与えるものに変わっていく。それは例えば、訓練後の関係をどうするのかという悩みにもなるわけです。その場限りの関係で終わるのか、それとも結婚をして国内外の配置転換を覚悟した中で共に歩んでいくのか。


主人公のメイヨは、元々自分の境遇もあるので人を信頼することに戸惑いがある青年です。鬼軍曹はそのを影を感じながら、有事にも揺るぎない精神を持てる士官にすべくしごきます。軍曹に反発をしながらも訓練を受ける中で、ある時メイヨは自分の境遇を白状し、2人の関係が深まっていく。その後彼は、それまでの自己中心的な考えから仲間を信頼するよう変化していく。


しかしそれでもなお、恋愛相手の女性に対する責任感は持てずにいた。それは潜在的には、自分の両親と同じような人生をたどるのではないか(父の裏切りと母親の自殺)という不安が払拭できないでいたのではないかと思います。


そんな中、親友をめぐって突然不幸な出来事が起こってしまう。そこで彼の心は大きく揺れ動き、自分を見つめる機会となって、最終的にはある決断をする。そしてフィナーレに向かっていきます(詳しくは作品をご覧ください)。


さて話題がちょっとずれますが、最近映画評論家の町山智浩さんのお話を聞く機会がありまして、そこでアメリカ映画と白人社会の成り立ちを知る機会がありました。その中で多くのアメリカ映画には、日本人があまり知らない移民の国ならではの人種問題が背景に隠されていて、そのことを知っているだけでも、より深く映画を理解することができるのだそうです。


例えばそれは先日の大統領選でも争点にもなっていたことで、「ラストベルト」と呼ばれるアメリカ中西部の古くからある工業地帯で起こっている問題なんかを反映している(白人の中に移民に仕事を奪われている人たちがいる問題)。町山さんの解説では、白人移民の歴史には2つの波があり、1つは初期にアイルランドなどから移民してきた人たち、そしてもう1つはその後何年かして“遅れて”やってきたロシアやポーランドなどからの移民たち。前者の中には高学歴、高収入で安定した生活を得られた人も多かったようですが、後者は言葉の問題などもあって定着に苦労し、長い間続く貧困問題を抱える人達も多かった。こうした貧困問題も第二次世界大戦の好景気によって、主に重工業の労働者となることで一旦は解消に向かった時期もあったのですが、しかし60年代以降の国内不況や産業構造改革(重工業からITへ)の煽りを受け、再び苦難の生活が強いられるようになっていった。


こうした社会問題を背景に、寒村にできた将来有望な士官学校の生徒に憧れ、苦しい生活から逃れるべく理想を託し彼らに近づく白人女性たちというテーマもある。このことが前半の若者たちの爽やかな男女関係から、後半の彼らの葛藤を生む中での重要な鍵となってくるわけです。


ちなみにこの映画、英題は"An Officer and a Gentleman"。つまり、「ある上官と紳士(の物語)」みたいな感じ。邦題のようなドラマチックさはなく、日本人が持つ『青春』と言う言葉の深みがあまり反映されていない感じがしますが、青春時代の危うさ、心の危機、しかしその悲しみを乗り越えて成長し、決断をして旅立つという流れがドラマチックに描かれている映画だと思いました。


主題歌の『Up Where We Blong』。これも名曲ですね。こちらもどうぞ。

https://www.youtube.com/watch?v=bjrOcrisGyI