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執筆者の写真Norio Tomita

海外生活とこころ

英国の日本大使館のホームページより、「海外在住が及ぼす精神的な影響」ということで、精神科医の先生が書かれたコラムがありましたのでご紹介いたします。

在住が及ぼす精神的な影響


当相談所でも、海外生活を送られている方へのカウンセリングサービスを行っていますが、こうした方々の課題や相談を受ける際のポイントがわかりやすく書かれていると思います。


異文化に触れる中での最大の問題は、みなさんもおわかりだと思いますが「言葉が通じない」ということです。日本で生活している中で、「言葉が通じない」と悩むことはほぼありませんし、たとえコミュニケーションがほぼない生活をしていても、自分でやれることが多いので困ることはほとんどないわけです。


しかしこれが海外生活になると、言葉が通じないことがそのまま生活の困難となってしまう。移動一つ取っても、日本で自分の力で当たり前にできていたことが、現地の人の助けがないと何もできなくなってしまう。


また文化の違いという壁もあります。日本の常識が海外では非常識になることがある。これもよく言われることですが、日本人は相手の気持を察することで人間関係を維持しますが、海外では自分の主張がしっかりできないと、誤解もされるし、馬鹿にされるようなこともある。


よく映画でこんなシーンがありますね。「トーストは焼色がつくまで焼いてちょうだい。バターはたっぷり塗って、でもダイエット中なのでジャムはそのぶん少なめでいいわ。コーヒは濃い目でミルクはいらない。ビターのチョコレートをひとかけらつけておいて」みたいなカフェでの店員との会話。ここまで自分のこだわりを持って日本人はカフェに行かないですね。こんな主張は逆に店主のこだわりを否定しているようで、失礼たとも”察し”、味の薄いコーヒーが出てきても文句も言わずに飲むでしょう。


日本人ではおなじみの「相手の気持を察する」ことに、特に欧米人は慣れていない印象があります。共感やおもてなしの気持ちがないわけではないけど、それよりもはっきり好みを言ってもらって始めて相手がどう思っているかわかるみたいな、あちらの人たちの常識みたいなものがある。そういう文化に慣れない中で、自信を失う方も多いと感じます。


慣れないうちは、こうした不安や上手く行かないことを何度か体験しなくてはいけない。そういう中で、「傷つき」「自信を失い」「自分を見失い」「絶望」しやすくなるのが海外生活では起こりやすいようです。


時間をかければいずれはその辺りが解決されていくわけですが、そうした課題に対して日本では余裕があっても、海外生活は自分のこれまでの経験が「失われる」ことが多くて(=喪失体験)、不安定になりやすくなる。


「そんなのもっと簡単に考えればいいんじゃないの?」「自分なら大丈夫だな」みたいに思う方もいらっしゃると思いますが、実際に体験してみるとそれはそんなに簡単なことではない。


例えば今の新型コロナ感染の問題も、先が見えない中で困難に耐えなければならない状況が、誰にとっても大変なのは、我々は身を持って感じていることですよね。そうした困難が海外生活者では日常的に起こっているわけです。


あなたの悩みは困って当たり前のことですので、一人で抱えずに、ぜひ相談をしてみてください。


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