おなじみ「人生に文学を」シリーズ。今回の講師は、作家の村山由佳さん。
表題は「モラルハラスメント」ということですが、この講演の前半に村山さんが語っているのは、「母親との葛藤」「夫からの言葉の暴力(DV)」といった自分自身の体験。
そしてこうした経験を、彼女は作品の中で多く扱っているということ。代表的な作品としては、2011年に発表した「放蕩記」があるそうです。
「母娘」の葛藤は、こころの問題としては割と多く見られるテーマでもあります。「放蕩記」に登場する母親は、自分の期待に娘が沿った行動をすると「あなたはすごい」と喜び、自分の期待に沿わない行動をすれば「あなたは私の子ではない」とこき下ろして落ち込ませるような極端な性格として描かれているそうです。そうした中で娘は、「どうしたら母親を喜ばせることができるのか」「自分が悪いから母親は幸せになれないのではないか」と悩み苦悩する。
そうした「良い子」が、思春期以降に世界が広がって自分を持ち始める時期になって、自らの自尊心が育っていない状況に苦しみだす。自分のためではなく、人の顔色を見てでしか生きられないという主人公の苦悩がこの作品の大きなテーマのようですが、その先の葛藤やこころの整理については、興味がありましたらいくつかの彼女の作品を読まれることをおすすめいたします。
多かれ少なかれ、「母−娘」の葛藤は多くの人々にとってテーマとなります。そして放蕩記に出てくる主人公のような、母親のこころの問題も大きなケースに関しては、思春期以降に摂食障害やこころの問題を生み、病院にやってくるケースも少なからずあります。
一般的に母親は娘にとって一人の同性の生きるモデルでもあり、また克服していかなければならない存在ともなる(男性でも父−息子の関係で起こる事)。だから一般の親子関係でも、わかり合ったりぶつかったりして、お互いの気持が表現され、やがてはそれが整理されていくこともあるのでしょうね。
途中、村山さん自身も作家になった自分の意味を語っていますが、彼女だけでなく多くの作家が共通して語るのが、自分の体験を作品にして書くことによって、自分自身が救われるという意味があるそうです。そしてそれは、割と読む側にも同じような経験や感動、考える機会を与えることができるということ。
そうした力が、文学にはあるようです。
댓글