人生における「順接」と「逆説」

悩みが起きる原因は、それまでの自分のやり方では対応できなくなった事態を経験する事が多いことは、皆さんおわかりだと思います。


例を挙げて考えてみましょう。


【Aさんの事例から考える】


Aさんは、親から「頑張ればいつか報われる」と教えられ育ってきました。親も常にAさんの頑張りを認め、褒めてくれていましたから、その親の期待に答えることができ、勉強や習い事で結果を出し続けてきました。


さてそんな中でAさんは大人になり、会社に入ることとなりました。そこで出会った上司は、人の努力に水を差すタイプの人で、自分よりもできる相手に皮肉を言うようなタイプの人でした。


Aさんは親の期待に答え続けたことが誇りになっていましたので、会社でも同じように結果を出すべく努力をしていましたが、その上司はそうしたAさんの態度に冷ややかで、結果を出したとしてもそれを当たり前のようにしか扱いませんでした。


Aさんは上司の態度に疑問を感じてはいましたが、認められないのは「自分の頑張りが足りないからだ」と考えて、さらに仕事を頑張りました。あるいは、どうにかその上司にわからせようと、ムキになっている部分もありました。そうした中で上司は、Aさんに「お前のスタンドプレイでみんなが迷惑をしている」と言い放ちました。その結果Aさんはうつ病となってしまいました。


この事例が示す、人生における「順接」と「逆説」を考えてみたいと思います。


前半の部分で、Aさんは努力の積み重ねで結果を積み上げてきました。この際には、自分の信念を貫くことで結果も伴っていたわけですから「悩み」はほぼなく、「達成感」を積み重ねてきた、あるいはその結果で「自信」を育んできたことは想像できますね。


成功という「足し算」を積み重ねられた時代だったわけで、言い換えれば「順接」を積み重ねた時代だったと言えるわけです。


しかし後半の馬の合わない上司とに出会いでは、こうしたそれまでの「順接」や「やり方」が通用しない状況となったわけです。それでもAさんは「順接」を積み重ねることをやめようとしなかったし、それによって結果が出せると信じていた。


でもそうしたAさんの頑張りを上司は快く思わなかった。こうした流れの中に、それまでの自分の常識が通じなくなっているという意味で、「逆説」が生まれているわけです。


ちなみにこの上司みたいな人、残念ながら世の中にはいますね。心理学では「嫉妬(しっと;envy)」という概念で説明することができる。自分にはない人の良い部分に憧れを感じ、その部分を攻撃をしたくなってしまう。あるいは出来の良い部下に自分が追い越される事を恐れ、芽を摘み取ってしまう。そういうメカニズムが起こっています。


【「逆説」にどう対応するか?】


閑話休題。


さて、先のように「順接」で通用しない状況に出会った際に、人は立ち止まって考えなければならない。つまりそれは。「逆説」という状況に対処できる「あたらしい自分」を付け加えなくてはならない状況とも言える。


ここではそれまでの自分を全否定する必要はありません。つまり「これまでの頑張りは全部無駄だったんだ」と結論付けることはない。たまたま馬の合わない上司と仕事が一緒になっただけで、そうした場面で自分がどう対処することができるのか、それを考えればよいわけです。つまりこれまでの自分と新しい自分を「使い分ける」器用さが身につけばいいということなのですね。


具体的な解決の方法は、個別の適応もあるのでカウンセリング等でじっくり話し合うことにもなるのですが、入り口段階で必要な理解は、こうした「逆説」的状態に私たちは強くなることが必要だということ。


これは私たちに、自分をあえて「否定」することの必要性を訴えかけているのかもしれません。


【「逆説」と「パラドックス」。そして正しい「自己否定」の方法】


倫理学の思考法に「パラドックス」の提示がありますが、これは最初はまったく理解することができない課題です。


「パラドックス」については、具体的にはまた次回以降紹介しますが、理解できない最大の理由は、それまでの身につけた自分たちの「常識」や「積み重ねた知識」が理解の邪魔をするからです。


「パラドックス」を日本語に翻訳すると「逆説」になるわけですが、人生における「逆説」との出会いもそれまでの自分の常識を覆す経験になるわけで、それを受け入れられないと「順接」に頼って泥沼にハマってしまう。そういう難しさが人生にはあるわけですね。


自分の常識を疑って違う対応を探るという、在る種の「自己否定」という能力も、柔軟に問題を解決するためには必要なことなのかもしれません。ただしそれは「全否定」ではありません。「部分否定」と「新しい自分」の付け加えです。


先の事例では、その上司に「認められる」ことを目的として頑張るのを諦めるのが一つであるのと、もしも頑張るのであれば上司から認められない中で、今までのように「他者評価」に頼るのではなく「自己評価」の構築を考えてみる。結果が出ない事の意味を「努力不足」にのみ還元するのではなく、広い視野で状況判断をする力をつけていく。そうした事が必要なのかもしれません。