こころのバランス感覚

昔、「平均台」という体育器具がありました。2、3メートルの縦長の角材の下に足がついていて、その上を落ちないように歩く(あるいは走る)ための器具です。


もちろんこれは体のバランスを上手に取らないと、途中で落ちてしまうわけですから、急げば落ちやすいし、だからといって慎重に進みすぎると時間がかかってしまうという、これまたバランスが必要なものです。


体のバランスとこころのバランス。今回はこの比較をしながら心の健康を考えてみたいと思います。


人間の社会において『真面目で几帳面』な人は他人から好かれたり、仕事を任されて信頼されやすいようなイメージがあります。しかしながらこうした性格の人は、実はうつ病やアルコール依存症になりやすい人とも言われます。


例えばこんな話(フィクションです)。


Aさんは、子どもの頃から真面目で学級委員などにも選ばれるような人でした。またその姿勢は大人になっても変わらず、上司からの信頼も熱い人でした。


ある時Aさんは人事異動で別の部署に移動しました。その移動先の上司はあまり仕事ができない人でしたが、Aさんがフォローを的確に行うので、上司は助かっていました。しかし一方でその上司はAさんの仕事ぶりを当たり前のように感じてもいて、特に感謝もせず、仕事を任せて早く帰るようなこともしばしばありましました。またAさんもその事に疑問を感じず、夜遅くまで上司の分まで仕事をこなしていました。


そんな中、Aさんは大きなミスをしてしまいます。そのミスは上司が適切にフォローすれば解決できることでしたが、上司はむしろAさんを叱責し、自分の責任から逃れようとしました。しかしながら真面目なAさんは、この事をきっかけに何かと自分を責めるようになり、自信も失って夜眠れなくなっていきました。また減らない仕事量の中でさらにミスも重なり、ついには朝会社に行けなくなってしまいました。


家族のすすめで病院を訪れたAさんは担当医師に状況を説明します。医師は「それはずいぶん上司も無責任なんじゃないの?」と感想を述べましたが、それでもAさんは「とにかく自分が悪い」と繰り返しました。そして診察の最後にAさんは「うつ病である」事を告げられ、薬の服用と1ヶ月の休養を勧められました。が、しかしAさんは「そんなに休んだら会社に迷惑をかけてしまう。他の人に申し訳ない」と言い、医師の言いつけを守らず次の日も仕事に行こうとしました。


こうしたお話は割と「うつ病」の典型的な例です。


Aさんの場合は、それまで上手く行っていた対人関係のスキルや仕事の仕方が、上司が変わったことで上手く行かなくなっています。しかしAさんはそれに気づかず、「うつ病」になってもなお、そのやり方を押し通そうとしています。


状況に合わせて、人は平均台の上の歩き方を考えなくてはいけません。同じやり方でも、うまくいく状況と、そうでない状況があります。Aさんのケースを考えると、その「見分け」「使い分け」が重要なようです。


一般的にも「真面目」「几帳面」は人間にとって最も良い行いのように思われがちですが、この上司との関係ではむしろ「逆効果」になっています。この事(「パラドックス;逆説」や「例外」)に気がつくことができるかどうかが、運命の分かれ目でもあります。


でもAさんはその点でも「こんなはずじゃない」と思い、自分を責める事から逃れられなくなっていますね。これは結構危険です。「うつ病」では、焦燥感や焦りが強くなり、自分を責め続け自暴自棄になったり、自殺してしまう人もいます。


つまりAさんには「変化」が迫られているわけです。その中で柔軟に対応できることが、「こころのバランス」を考える際に重要なのですね。だから面白い話でもありますが平均台の上でバランスを崩すことは、自分の可能性を広げるチャンスでもあるのです。


平均台から落ちた経験を経て、悔しさを感じながらも私達は成長できるのだという、「人間臭い」お話でした。


080-2568-2457

Tel